成人の脳は想像以上に柔軟である。何かを始めるのに遅すぎるということはない。

30代になってから文字を読むことを学んだインド人女性らを対象とした調査で、人の脳が自らを再編成して変容させる驚くべき能力を備えていることが明らかになった。研究論文が24日、発表された。

 研究チームは、文字を読むことを処理する脳の部位について調べるため、非識字率約39%のインドで女性らを対象に調査を行った。

 研究開始時、女性らの大半は母語のヒンディー語の単語を読めなかった。だが6か月に及ぶ訓練の後、女性らの識字能力は小学1年生相当のレベルにまで達した。

 米科学誌「サイエンス・アドバンシズ(Science Advances)」に掲載された論文の主執筆者で、独マックスプランク心理言語学研究所(Max Planck Institute for Psycholinguistics)のファルク・ヒュッティヒ(Falk Huettig)氏は「この知識の成長は目覚ましい」とコメント。「新しく言語を習得するのはかなり難しいが、その一方で、文字を読むことははるかに習得しやすいようだ。成人の脳が驚くほど柔軟であることが分かる」と述べた。

 研究では、変容が生じた主な部位が、具体的に大脳皮質として知られ、新たな課題に素早く順応できる脳の外側部分でなかったことも分かった。

 脳の再編成が起きていたのは、脳の外側部分ではなく深部領域、特に脳幹と視床だった。視床は、くるみ大の構造体で、知覚と運動に関する情報を中継する。

 研究チームはまた、影響を受ける部位に伝わる信号が増えるほど、女性らの読字力が向上することも確認した。

 論文の共同執筆者で、独マックスプランク認知脳科学研究所(Max Planck Institute for Solar System Research)科学研究員のミハエル・シャイダ(Michael Skeide)氏は「これらの脳システムは、学習者の読字力が向上するにつれて、ますます多くの微調整をシステム内の情報伝達に加えている」と説明する。

 同氏は「読者が経験を積むほど、文章を読み解く効率が高くなる理由は、これで説明できるかもしれない」とも付け加えた。

 今回の研究成果は、失読症(ディスレクシア)の治療に示唆を与える可能性がある。一部の研究者らは、視床の機能不全を失読症の原因として挙げている。

 シャイダ氏は「読字の訓練をほんの数か月施しただけで、視床を根本的に変えることが可能であることが、今回の研究で明らかになった。今後、この仮説を精査する必要がある」と指摘した。

★失読症(ディスレクシア)
ディスレクシア(英語: Dyslexia、ディスレキシアとも)は、学習障害の一種で、知的能力及び一般的な理解能力などに特に異常がないにもかかわらず、文字の読み書き学習に著しい困難を抱える障害である。難読症、識字障害、(特異的)読字障害、読み書き障害とも訳される。1884年にドイツの眼科医ルドルフ・ベルリン(ドイツ語版)によって報告され命名された。

顕著な例では数字の「7」と「seven」を同一のものとして理解が出来なかったり、文字がひっくり返って記憶されたりして正確に覚えられない、など様々な例がある。原因は、遺伝的側面と、環境要素があるとされる] 。
治療法は、患者の問題ではなくニーズに合わせた教育方法をとることによってハンディを減らせるとされる。視力を対象とした治療では効果がない。

ディスレクシアは学習障害の中で最も多い障害であり、世界すべての地域で確認され、人口の3-7%ほどに見られるが、それがハンディとなっているのは20%程度である。男性のほうが診断率が高いが、男女で等しく確認されると言われている。一部の人々はディスレクシアを、長所と短所を併せ持つ、異なる学習方法とみなすべきだと主張している


◆ディスレクシアの有名人
ハリウッドスターであるトム・クルーズが自らディスレクシアだと公表した事によって、この障害の知名度が高まった。トム・クルーズのほかに、キアヌ・リーブスなども自らがディスレクシアであることを明かしている。ジェニファー・アニストンも20代前半にディスレクシアと診断されたと2015年に公表している。

オーランド・ブルームは幼少期にディスレクシアで悩まされたが、聖書の朗読などで、現在では改善されつつある。また、キーラ・ナイトレイは、録音読書で学習したり、色付き眼鏡をかけて文章の文字が混じって見えないように工夫して読書している。

古生物学者のジャック・ホーナーもディスレクシアの一人とされる。恐竜が鳥類に近い生き物であったことを証明し、映画『ジュラシック・パーク』の恐竜博士のモデルともなったジャック・ホーナーの読み書き能力は小学3年生程度であり、普段は文書を一度コンピューターに打ち込み、読み上げソフトを使用して聞き取る形で読んでいる。

その『ジュラシック・パーク』の監督、スティーヴン・スピルバーグも、自身がディスレクシアの診断を受けたことを告白している。実際に読字障害のため、学校卒業が2年遅れ、いじめ体験や学校に行く事が苦痛だったと語っている。現在でも脚本などを読むのは人の2倍、時間を要するとのこと。

トーマス・エジソン、レオナルド・ダ・ヴィンチ、アルベルト・アインシュタイン、ジョージ・パットン第2代アイヴァー伯爵ルパート・ギネスも、ディスレクシアだったとされている。

2008年および2014-2015年のF1世界選手権を制したF1ドライバー ルイス・ハミルトンは子供から質問を受けるドイツ紙シュトゥットガルター・ツァイトゥング(Stuttgarter Zeitung)のインタビューで、学校生活について質問を受け、「僕はディスレクシアだから大変だった」とコメントした。
女優のウーピー・ゴールドバーグは文字を左右反対に書く症状のディスレクシアである。

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